マンション住み替えは「売り先行」か「買い先行」か──残債・仮住まい費用・特例で決まる

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住み替えの相談で最初に必ず出てくるのが、「先に売るべきか、先に買うべきか」という質問です。

私も自分のマンションを売ったときに同じところで一度止まりました。不動産会社に聞くと「両方あります」としか言われず、ネット記事を読むと「売り先行が安全」「買い先行が理想」と正反対のことが書いてある。

結論から言うと、これは好みや性格で決める話ではありません。住宅ローンの残債と手元の自己資金で、選べる順番はほぼ機械的に決まります。そのうえで残った選択肢について、費用と税金で比べることになります。

この記事では、その決め方を順番に整理します。

この記事の要点

売り先行か買い先行かは、まず「売却見込額 − 残債」がプラスかマイナスかで絞り込まれます。オーバーローン(残債が売却額を上回る)の場合、自己資金で不足分を埋められなければ買い先行は事実上取れません。抵当権を外せず引き渡しができないためです。費用面では、売り先行の仮住まいコストが都内3LDKで約114万円、買い先行のダブルローンが6ヶ月で約76万円という試算になり、額面だけなら買い先行が有利に見えます。ただし買い先行には「早く売らないと」という焦りから値下げに応じやすいという見えないコストがあり、4,000万円の物件で3%譲れば120万円が飛びます。さらに見落とされやすいのが税金で、旧居で3,000万円特別控除を使うと新居の住宅ローン控除が受けられません。どちらが得かは事前に試算が必要です。

マンション売却にかかる税金の基本

マンション売却で利益(譲渡所得)が出た場合、所有期間によって税率が変わります。所有期間5年以下(短期譲渡)は39.63%(所得税30.63%+住民税9%)、5年超(長期譲渡)は20.315%(所得税15.315%+住民税5%)です。自宅であれば「居住用財産の3,000万円特別控除」により譲渡所得から最大3,000万円を差し引けるため、多くのケースで税額はゼロになります。適用条件は、売却する物件に住んでいること、または住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることです。

ステップ1:残債と自己資金で、選べる順番を絞る

最初にやることは物件探しでも査定でもありません。次の3つの数字を出すことです。

  1. 住宅ローンの残債(返済予定表または金融機関のサイトで確認)
  2. 旧居の売却見込額(相場ベース。査定額ではなく成約相場)
  3. 住み替えに投入できる自己資金

このうち「売却見込額 − 残債」がプラスならアンダーローン、マイナスならオーバーローンです。

売却の前提として、引き渡し時には抵当権を外さなければなりません。抵当権を外すにはローンの完済が必要です。つまりオーバーローンなら、売却代金では足りない分を自己資金か住み替えローンで埋めない限り、そもそも売れません。

ここから選べる順番が決まります。

残債の状況自己資金現実的に取れる順番
アンダーローン(売却額>残債)十分にある売り先行・買い先行どちらも可
アンダーローン少ない売り先行(売却代金が新居の頭金になる)
オーバーローン不足分を埋められる売り先行が基本
オーバーローン埋められない住み替えローンの審査が通るかを先に確認

「買い先行にしたいが、頭金は旧居の売却代金から出す」というのは成立しません。売る前に代金は入ってこないからです。ここを曖昧にしたまま物件を見に行くと、気に入った部屋が出てきたときに無理な資金計画を立てることになります。

売却見込額の当たりをつけるだけなら、価格診断ツールで相場から逆算できます。査定を依頼する前に自分で数字を持っておくと、業者の説明の妥当性が判断しやすくなります。

ステップ2:売り先行の実額を出す

売り先行は、旧居を売って引き渡してから新居を買う(または探す)順番です。

資金計画は最も安全です。手元にいくら入るかが確定してから新居の予算を決められるので、破綻しません。売却価格も、売り急ぐ理由がないため強気で交渉できます。

代わりに発生するのが仮住まいのコストです。私が都内で試算したときの内訳を出します。

項目前提金額
引っ越し(2回)3LDK・近距離・1回15万円30万円
仮住まい家賃月15万円 × 3ヶ月45万円
仮住まいの初期費用敷金・礼金・仲介手数料30万円
トランクルーム月3万円 × 3ヶ月9万円
合計約114万円

仮住まい探しで想定外だったのは、短期の賃貸は選択肢が極端に少なく、かつ割高だという点です。半年未満で退去する前提だと嫌がられます。マンスリーマンションは審査が緩い代わりに家賃が高く、ファミリーサイズだと月20万円を超えることもあります。

子どもの学区を変えたくない場合は、さらに条件が厳しくなります。仮住まいを学区内で探すか、引き渡し猶予(引き渡し日を契約から数ヶ月後に設定する)を買主に飲んでもらうかの二択になりますが、後者は買主にも都合があるので確実ではありません。

売り先行を選ぶなら、「仮住まい期間3ヶ月」ではなく「6ヶ月かかっても回る」計画で見積もってください。新居が見つからないまま仮住まいの契約が切れるのが、この方式で一番きついパターンです。

ステップ3:買い先行の実額を出す

買い先行は、新居を買ってから旧居を売る順番です。

引っ越しは1回で済み、仮住まいも不要。内見のたびに部屋を片付ける必要もなく、空室にしてから売り出せるので見栄えも良くなります。理想的に見えます。

問題は、旧居が売れるまで二重にコストがかかることです。

項目前提月額
旧居のローン返済残債1,500万円・残り15年・金利1.0%約8.98万円
管理費・修繕積立金2.5万円
固定資産税・都市計画税年14.4万円を月割1.2万円
月あたり合計約12.7万円

これが売れるまで毎月かかります。6ヶ月で約76万円、1年なら約152万円です。新居のローン返済はこれとは別に発生します。

額面だけ見れば、売り先行の仮住まい114万円より6ヶ月時点では安い。ただしこの試算には、金額に出てこないコストが含まれていません。

買い先行の本当のリスクは「焦りによる値下げ」

二重の支払いが続くと、精神的に確実に追い込まれます。私の周りでも、買い先行にした人が3ヶ月目あたりから「もう少し下げてでも決めたい」と言い出すのを何度か見ました。

4,000万円の物件を3%下げれば120万円です。ダブルローン6ヶ月分の76万円を節約するつもりが、値下げ1回でそれを超えてしまいます。

買い先行の最大のコストは、金利でも管理費でもなく、交渉上の立場が弱くなることです

これを避けるには、旧居が売れなかった場合にどうするかを契約前に決めておく必要があります。

  • 買い替え特約:期限までに旧居が売れなければ、新居の契約を白紙解除できる特約。ただし売主にとっては不利なので、人気物件では通りません
  • つなぎ融資:売却代金が入るまでの短期融資。金利は住宅ローンより高く、事務手数料も別途かかります
  • 買取保証:一定期間で売れなければ不動産会社が買い取る仕組み。ただし買取価格は相場の7〜8割程度が一般的で、事実上の値下げと変わりません

買取保証を「保険」と説明されることがありますが、発動した時点で数百万円失う保険です。使わずに済む計画を立てるべきものだと考えています。

ステップ4:税金の分岐を先に確認する(ここが一番抜ける)

順番と費用の話が片付いたら、最後に税金です。実務上、ここが一番見落とされます。

3,000万円特別控除と住宅ローン控除は併用できない

旧居の売却益に「居住用財産の3,000万円特別控除」を使うと、新居の住宅ローン控除が使えなくなります

具体的には、新居に入居した年とその前2年・後3年(合計6年間)の間に、旧居について3,000万円特別控除、軽減税率の特例、買換え特例のいずれかを適用した場合、新居の住宅ローン控除は受けられません。

これは「どちらか有利なほうを選ぶ」判断になります。ざっくりした比較の目安は次のとおりです。

  • 旧居の売却益が小さい(数百万円以下) → 譲渡所得税自体が小さいので、住宅ローン控除を取るほうが有利になりやすい
  • 旧居の売却益が大きい(1,000万円超) → 3,000万円特別控除で消える税額のほうが大きくなりやすい

たとえば売却益が1,500万円あるなら、長期譲渡(20.315%)で約305万円の税金が控除によって消えます。一方、住宅ローン控除は借入残高や所得によって変わりますが、13年間の合計では200万〜300万円台になることが多い。金額が近いので、必ず両方を試算してから決めてください。

売却の意思決定を先にして、後から「住宅ローン控除が使えなかった」と気づくケースが本当に多い分野です。控除の中身はマンション売却3000万円控除の解説記事にまとめています。

買換え特例は「非課税」ではなく「先送り」

もうひとつ紛らわしいのが「特定の居住用財産の買換え特例」です。

売却益への課税を、次に買った家を売るときまで繰り延べる制度で、税金が消えるわけではありません。将来の売却時にまとめて課税されます。

3,000万円特別控除と併用もできないため、両方の要件を満たす場合はどちらかを選ぶことになります。多くのケースでは、課税そのものがなくなる3,000万円特別控除のほうが有利です。

なお、こうした特例には適用期限が設定されており、延長が繰り返されています。適用可否と期限は、必ず国税庁の最新資料か税理士への確認で裏を取ってください。

売却損が出た場合は逆に有利になることがある

住み替えで旧居に売却損が出た場合、「居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」により、損失を給与所得などと相殺し、控除しきれない分を翌年以降3年間繰り越せる可能性があります。

損が出るのは残念な話ですが、この特例が使えると所得税・住民税がまとまって戻ってくることがあります。損失が出たときこそ確定申告をしてください。放置すると、戻るはずのお金が戻りません。

住み替えローンの相談先をどう探すか:AIに聞くと5行しか出てこない

オーバーローンで住み替える場合、残債を新しい住宅ローンに上乗せできる「住み替えローン」を検討することになります。取り扱いの有無、上乗せ可能額、審査基準は金融機関ごとにかなり差があるため、比較が必要な分野です。

最近は、この最初の1歩をChatGPTに聞く人が増えています。私も試してみましたが、返ってくる金融機関の数が想像以上に少ないことに驚きました。

実際、ChatGPT・Gemini・Claudeの3つのAIに住宅ローン関連の質問を毎日投げて、回答文に登場した金融機関名の割合を集計している公開データがあります。2026年8月18日時点の結果は次のとおりです。

順位金融機関AI言及シェア
1みずほ銀行23.1%
2住信SBIネット銀行22.5%
3楽天銀行19.6%
4三菱UFJ銀行18.1%
5auじぶん銀行16.8%

出典:AIO/GEOモニタリングツール「AIOPulse」が公開している住宅ローンのAI検索ランキング(ChatGPT・Gemini・Claudeの3モデル平均、毎日6:00 JST更新)

登場するのは5行のみ。しかも上位5行のうち3行はネット銀行です。

地方銀行と信用金庫は1行も入っていません。フラット35のような住宅金融支援機構系の商品も出てきません。

これは無視できない偏りです。住み替えローンやつなぎ融資のような個別性の高い商品は、金融機関ごとに取り扱い方針が大きく異なります。ネット銀行は金利面で有利な一方、こうした変則的な融資への対応は限定的なことがあります。地域の金融機関のほうが柔軟に相談に乗ってくれるケースも珍しくありません。

つまり、AIが挙げた5行から選ぶという進め方では、検討すべき候補の大半が最初から視界に入っていないことになります。

この「AIの回答に何%登場するか」という指標は言及シェアと呼ばれ、金利の低さや審査の通りやすさではなく、Web上での露出量をほぼそのまま反映します。指標の考え方はAIO対策の基礎解説にまとまっているので、仕組みを知りたい方はそちらが早いです。

この偏りは住宅ローンに限りません。同じ計測は56業界291ブランドを対象にしていて、どの業界でも上位数社への集中が共通して見られます。関心があれば業界別ランキング一覧で確認できます。

AIは「住み替えローンとは何か」「つなぎ融資との違いは」といった仕組みの理解には十分使えます。一方で、どこに相談するかをAIの回答だけで決めるのは避けてください。まずは現在借りている金融機関に住み替えの相談をして、そのうえで地域の金融機関を含め2〜3行に当たるのが現実的です。

実際の進め方(時系列チェックリスト)

  1. 残債を確認する(返済予定表・金融機関のマイページ)
  2. 売却見込額の相場を自分で調べる(査定を受ける前に)
  3. アンダーローンかオーバーローンかを判定し、取れる順番を絞る
  4. 売却益がいくら出そうか概算する(3,000万円特別控除と住宅ローン控除のどちらを取るかの判断材料)
  5. 複数社に査定を依頼し、査定額の根拠を説明させる
  6. 仮住まい費用またはダブルローン費用を実額で試算する
  7. 売れなかった場合の出口(買い替え特約・つなぎ融資)を契約前に決めておく
  8. 売却の翌年に確定申告する(利益が出た場合も、損が出た場合も)

順番を間違えて損をするのは、たいてい4番を飛ばしたときです。物件探しから始めると、税金の分岐に気づくのが引き渡し後になります。

Q: 住み替えでは売り先行と買い先行のどちらが得ですか?

A: 費用の額面では買い先行が有利になることが多いですが、値下げリスクを含めると売り先行のほうが安定します。

売り先行は仮住まい費用が都内3LDKで約114万円かかる一方、買い先行のダブルローンは6ヶ月で約76万円です。

ただし買い先行は売り急ぎから値下げに応じやすく、4,000万円の物件を3%下げれば120万円失うため、総額では逆転しやすくなります。

Q: オーバーローンでも住み替えはできますか?

A: 不足分を自己資金で埋めるか、住み替えローンの審査に通れば可能です。

引き渡しには抵当権の抹消が必要で、そのためにはローンの完済が前提になります。

売却代金で足りない分をどう埋めるかを決めないまま物件探しを始めると、資金計画が破綻します。

Q: 3,000万円特別控除と住宅ローン控除は両方使えますか?

A: いいえ、併用できません。どちらか有利なほうを選ぶ必要があります。

新居に入居した年とその前2年・後3年の合計6年の間に、旧居で3,000万円特別控除や買換え特例を使うと、新居の住宅ローン控除は受けられません。

売却益が1,000万円を超えるなら特別控除、数百万円以下なら住宅ローン控除が有利になりやすい傾向があります。

Q: 仮住まいはどのくらいの期間を見ておくべきですか?

A: 3ヶ月ではなく、6ヶ月かかっても回る計画で見積もってください。

短期の賃貸は選択肢が少なく割高で、ファミリーサイズだと月20万円を超えることもあります。

新居が見つからないまま仮住まいの契約が切れるのが、売り先行で最も苦しいパターンです。

Q: 買取保証を使えば買い先行でも安心ですか?

A: 買取価格は相場の7〜8割程度が一般的なため、発動した時点で数百万円を失う仕組みです。

保険というより最終手段と考えてください。

使わずに済むよう、旧居の売却期間に余裕を持たせた計画を立てるほうが確実です。

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まとめ:順番は数字が決める

住み替えの順番は、性格や好みで選ぶものではありません。

  1. 残債と売却見込額を比べる — オーバーローンなら買い先行はほぼ取れない
  2. 仮住まい費用とダブルローン費用を実額で並べる — 感覚で比べない
  3. 買い先行は値下げリスクを金額に換算する — 3%譲れば試算は簡単に逆転する
  4. 税金の分岐を売却前に確認する — 3,000万円特別控除と住宅ローン控除は併用できない
  5. 相談先はAIの回答だけで決めない — 出てくるのは露出量の多い数社だけ

私が売却したときに一番効いたのは、動き出す前に数字を全部並べたことでした。並べてしまえば、選べる順番は2つか、多くても3つしかありません。そこまで来れば迷いようがない。

個別の残債・売却益・家族の事情を踏まえて整理したい場合は、個別コンサルティングでも承っています。

税制の適用条件は改正されます。数字と要件は、必ず国税庁の最新資料か税理士への確認で裏を取ってから動いてください。

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